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自分が脅しや脅迫にあっていることを知らせるために、届いた脅迫やスパムメールを公開したい、というシチュエーションが起きるかもしれません。あまり想像したくないですが。
その際、メールを公開する行為が違法なこととして送信者から弱みとしてつつかれる可能性はないか、という話です。
ここで注意は「先方都合で一方的に送られてきたメール」です。お互いが何らかの契約の元で送受信しあっているメールは、その契約で公開が禁止されているのであれば、その契約が不当でない限り、公開すると契約違反になります。契約の不当性はその内容によるので、ここで一般論で論じることはできません。ということで、「一方的に送られてきたメール」に限ります。
判例を探してみたところ、
東京地裁平成21年3月30日判決
が、この問の答えになりそうです。
平成21年3月30日判決言渡 同日原本領収 裁判所書記官
平成20年(ワ)第4874号 著作権に基づく侵害差止請求事件
http://www.courts.go.jp/app/files/hanrei_jp/516/037516_hanrei.pdf
この判例は、原告が送った催促書を、被告が自分のウェブサイトに掲載したことに対して、原告が削除を求めたことに対する判決。
この判例では、原告の請求が棄却されています。つまり、先方都合で送られてきたメールの公開は違法にならない場合がある、ということです。
何故違法ではない、つまり、公開削除要求が棄却されたか、ですが、
著作権法上保護されるべき創作性のある表現が見当たらない
と判断されたためです。
著作物とは、著作権法第二条1で
「思想または感情を創作的に表現したものであって、文芸、学術、美術または音楽の範囲に属するもの」
著作権法
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S45/S45HO048.html
と定義されています。
催促書にはありふれた通信文や形式的な事務内容しか書かれていないため、創作物とみなされず、保護対象にならない、よって、公開削除要求は棄却される、ということです。
創作的な文章でなければ、公開しても、少なくとも著作権法上の違法にはならない、ということです。
この判例、裏を返せば「創作的表現と認められるメールや文章は著作物になるので著作権法に則らない公開は違法になる可能性がある」ということになります。
おっと、そうすると、同じスパムでも
主人がオオアリクイに殺されて1年が過ぎました
は「創作的表現に満ち溢れたスパム」になりますね。著作権法的には、このスパムの内容は公開できない可能性があります。
もちろん、引用の範囲であれば問題ないです。といっても、スパムメールなので、出典を表記してもそれを見ることはできませんが。
ただ、著作権法違反は2017年時点では親告罪ですので、著作権を有するものが申し立てしないと罰則は適用されません。「主人がオオアリクイに殺されて1年が過ぎました」メールを全文公開しても、送信者がなにか言ってくることはまずないでしょう。
防災SNSアドバイザー。情報処理安全確保支援士第5338号。ネットワークスペシャリスト。ITコーディネータ
東北大学大学情報科学研究科第2期生。1994年からインターネットに携わる。システムベンダーの総務社内SEとして、社内システムの構築運用やBCP策定、従業員教育に関与。2015年情報セキュリティ専門法人「まるおかディジタル株式会社」を福井県坂井市丸岡町に設立し現在に至る。研修では基本的に防災のお話以外では着物でお話させていただいております。
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