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2018年(平成30年)2月、福井県は大雪に見舞われました。また、同年7月、福井県だけではありませんが、大雨に見舞われました。
こういう災害時に、行政組織は災害に関する情報を発信し、そのエリアの居住者等に適切な行動を促す必要があります。情報を発信する方法はインターネットだけではないのですが、インターネットが重要な発信方法であることは、2018年現在であれば異論がないでしょう。
ところが、災害上のインターネット発信に関しては、率直に言って私が住んでいる福井県は全くおそまつな対応でした。
おそまつな点はいろいろとありますが、今回は特に「即座に行動を促す必要があるメッセージをPDFで発信する」という点に焦点を当てて書いていきます。
Contents
緊急性の高いメッセージをPDF配布しても情報が広まらない
2018年(平成30年)の大雪を受けて、福井県は大雪に関する情報のページを作成しました。
平成30年2月大雪に関する情報
http://www.pref.fukui.jp/doc/fukuikensaigai/20180206.html
また、2月12日の時点で、県としては道路の混雑や除雪作業への影響を考慮して、県民や企業に、「オフィスの操業や不要不急の自動車利用を控えてほしい」というメッセージを出しました。
これは、西川福井県知事が出しているメッセージで、非常に重要性が高いメッセージです。
この情報が広がりだすのは、えちぜん鉄道様が西川県知事のメッセージを、画像ファイルとしてFacebookに上げてからです。
本来であれば、福井県が、HTMLで文字として、福井県町のサイトで西川知事を公開すべきだったでしょう。そうすれば情報の伝達やシェアは早かったかもしれません。しかし、それをしませんでした。もともと情報公開も遅かったのですが、それに輪をかけて、広まるのも早くありませんでした。
PDFの情報は
- HTMLのようなDescription機能がなく、要約がわからない
- ファイルに無駄な情報が多く、無駄にファイルが大きくなる
- ファイル作成方法によっては、コピー&ペーストがおかしくなる
- TwitterやFacebookで拡散する際、OG 画像がないので、注目を集めない
と、情報を広めていくことには全く向いていないフォーマットです。
PDFは体裁を伝えるフォーマットであり、内容を伝えるフォーマットではない
PDFは、「どのような環境で印刷しても同じ見え方が再現できる」という点が利点のファイルフォーマットです。
PDFにとって重要なのは、印刷されたときに、どの位置にどの対象が見えるか、という見え方。大事なのは見た目や体裁であり、内容ではありません。内容や意味を伝えるのであれば、単純なテキストファイル、XMLといった意味構造を持ったファイルや、普通のHTMLのほうが良いのです。
「PDFは改ざんに強い」という都市伝説
「PDFは改ざんに強い」という思い込みでPDFを作られているとしたら、それは根拠のない都市伝説と言って良いでしょう。
- PDFはAdobeのソフトウェアで簡単に書き換えできる
- スマートフォンでPDFを閲覧した場合、ダウンロード元のURLが確認できないため、偽ファイルを偽ドメインで作られた場合にその事に気づかない
- テキスト比較がHTMLよりも手間なので、改ざんチェックが面倒。改ざんに気づきにくい
改ざんへの強さを保証するなら
- 電子署名を入れる
- 発信ドメインの完全性を保証する
が適切であり、それはPDFとは無関係です。むしろ、PDFでは非常にやりにくいことです。(PDFでも電子署名は可能ではありますが、なかなか見ません)
別部署が作った電子ファイルの資料を印刷して、スキャナで取り込みPDFファイルとしてWebで公開
福井県は、大雪に関する多くのPDF資料を作っています。紙として会議資料として使う目的の資料であれば、PDFのほうが紙の体裁に合うので、適切かもしれません。
そういった資料はこちらに保存されています。後々確認するために資料を作ること自体は悪くありません。
平成30年2月大雪に関する資料等について
http://www.pref.fukui.lg.jp/doc/fukuikensaigai/information/index.html
ただ、作った資料をわざわざ一旦印刷してもう一度PDFとして読み込むというのは非常に無駄です。
例えば、以下のファイルは、余計なゴミドットが入っていることから、
- 電子ファイルで作成
- 印刷
- 印刷物をスキャナで取り込んでPDF化した
と推測されます。
・・・いや、この作業無駄でしょ。そこまで福井県庁内は連携が取れていないんでしょうか。
印刷物をスキャナで取り込んでPDF化というのは、紙媒体でしか資料がないものを取り急ぎ電子化したい、という場合には他に方法がないので仕方ありません。が、電子ファイルで作ったものをわざわざ印刷したあとでスキャナで取り込んでまたPDFファイル化するというのは非常に無駄。
これがセキュリティ対策としてそうしている、というのであれば、セキュリティの考え方が間違っています。無駄な動きをさせることがセキュリティではありません。
PDFが適切な場合
もちろん、PDFによる情報発信が適切な場合もあります。例えば
- チェックリストやハンドブックなど、印刷利用が前提で、体裁が重要なデータ
チェックリストは共通で書き込みをする必要があるので、印刷されたときの体裁が共通である必要があります。なので、そういうものはPDF向き。PDFだから否定するのではなく、「PDFだと緊急災害情報を的確に広める上で邪魔になる」ので否定するのです。
7月8日の豪雨の情報発信も残念な情報発信をする福井県は「のくてぇ」
2018年2月の大雪の約5ヶ月後、福井県だけではないのですが、豪雨に見舞われます。これに際して作られたページがこちら
7月5日からの大雨に関する情報について
http://www.pref.fukui.lg.jp/doc/kikitaisaku/fuusuigai/renrakushitsu_180705.html
・・・うーん、ほぼ会議記録のPDFを掲載しているだけ。会議の出席者名をHTMLでこのページに書いていますが、このページ、誰が読む想定なのでしょうか。
県民が見て役に立つ情報が皆無ではありません。こういう情報は掲載されています。
====ここから====
平成30年7月5日(木)に、本県内広範囲に大雨(土砂災害、浸水害)警報が発令されています。
県内では、避難所が開設されている地域があります。県民の皆様におかれましては、最新の気象情報を確認してください。
平成30年7月8日10時05分、県内の土砂災害警戒情報は全ての地区で解除されました。
□■気象警報等をメールマガジンやSNS(ツイッター、フェイスブック)で配信しています■□
→メールマガジンの登録はこちら
→県危機対策・防災課のSNS(ツイッター、フェイスブック)はこちら
====ここまで====
・・・言われるまでもなく、わかっている情報です。ただ、緊急情報を配信している情報源に誘導しようとしている点は評価できます。
で、この豪雨で、福井県知事のメッセージが発表されています。
もちろんPDFです。
知事の発言をPDF以外で表示したら、呪われでもするのでしょうか。
もっとも、今回の知事のメッセージは、それほど大したことは言っていません。2ヶ月前の大雪のときは、県内の企業への操業自粛と、県知事でなければ説得力のない内容だったので、PDFであることはかなり致命的でしたが、今回は知事の発言でなければ意味がない、というほどのものではありません。
でも、意味を伝える必要がある災害情報発信で、体裁を伝えることを目的に設計されたPDFを使うのは、福井弁でいうと
「のくてぇ」
です。
「のくてぇ」の意味は、別途お調べください。
福井商工会議所のPDFによる豪雪調査報告書は秀逸だが、一点残念な点が
今回の豪雪をもとに、福井商工会議所は、豪雪に関する調査を実施しました。さすがに、連携協定でBCPに力を入れているだけあります。そして、調査報告書をPDFにまとめています。
「豪雪の影響に関する調査(確定版)」結果要旨
http://www.fcci.or.jp/chousa/2017/gosetsu-chousa.pdf
この調査報告書がPDFなのは、別に悪くはありません。印刷して発表することを前提にしているのでしょうし、緊急拡散しなければいけない情報ではありません。
報告内容もうまくまとめられていて、情報として非常に価値が高いです。
ただ、残念な点が一点。
豪雪調査の報告書のタイトルが
定額給付金特別セール「ふくいツカッチャ王」
なのです。・・・別にファイルを使いまわしてもいいとは思いますが、こういうところは直したほうがいいかと・・・・。せっかく素晴らしい報告書なのに・・・
なお、これは文書のプロパティを編集しないと行けません。PDFだと、こういうところ直すってことには気づきにくいのです。文章のメンテナンス性、という点でもPDFはよろしくないのです。
防災SNSアドバイザー。情報処理安全確保支援士第5338号。ネットワークスペシャリスト。ITコーディネータ
東北大学大学情報科学研究科第2期生。1994年からインターネットに携わる。システムベンダーの総務社内SEとして、社内システムの構築運用やBCP策定、従業員教育に関与。2015年情報セキュリティ専門法人「まるおかディジタル株式会社」を福井県坂井市丸岡町に設立し現在に至る。研修では基本的に防災のお話以外では着物でお話させていただいております。
情報セキュリティ・IT関連資格取得・企業防災(BCP)の組織内教育・コンサルティング・支援・取材のお問い合わせなどございましたら、こちらからご連絡ください。
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